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【あんなぁ よおぅききや】NO.05 ハッケヨーイ

あんなぁよおぅききや

町内の子供会で、八幡水泳場へ連れてもらいました。
水泳パンツなどはなく、木綿の晒しの白い六尺褌(ふんどし)を締めていました。
中には喧嘩に強い者の象徴のような赤褌を締めている人もありました。
水の中に長く入って唇が紫色になってくると、子供会のおじさんが
笛を鳴らして、
「みんな一度上がりなさい」と砂浜で甲羅干しをさせられました。
「相撲とろうか」
じっと身体が温まるのを待っていられず、砂の上に大きな円を書いた土俵で、
近所のおじさんが持ってきた団扇を軍配にして、
「ハッケヨーイ、ノコッタノコッタ」 と勝ち抜き戦をして遊びました。
ちょうど褌をしているので、自分がお相撲さんになったみたいで、
泳ぐのも忘れて遊んだものです。

中学一年の時に、家屋強制疎開で広くなった五条堀川東の辺りに、
大きなテント張りの大相撲の興行がありました。
同級生の松田君は 『今長』 という料理屋さんの息子さんで、相撲小屋の中で食堂を
出されていましたから、二人で裏からそっと入れてもらい、通路で見ていました。
終戦直後で 『神風』 の言葉に勇ましさを感じていたのか、私は神風さんが好きでした。
「ハッケヨーイ、ノコッタノコッタ」 の本物の声を聞いて興奮し、
身震いしたのを覚えています。 

「お父さん、今日ほんまもんの相撲を見てきたんやけど、なんで
『ハッケヨーイ、ノコッタノコッタ』 て言うのんぇ?」
「へぇ、ほんまもんの相撲見てきたんか。お相撲さん大きかったやろ。
『ハッケヨーイ、ノコッタノコッタ』 て行司さんが声掛けはるのは、
相撲の時の昔からのかけ言葉なんや。
漢字で書いたら 『発気揚意』 と書くのや。
相撲を取り始める立ち上がりの時や、途中で二人の動きが止まった時に
『発気』 は 『やる気を起こせ』  『揚意』 はもっと意志を高めろ」 という意味で、
相撲を取ってる二人に気合を入れはるのや。
『ノコッタ』 は、土俵に追い込まれたが、まだ土俵に残ってるぞ、偉いよう
辛抱したなて言うてるのや。

あんなぁ よおうききや 

何でも、今していることに気合を入れて、精神や気分を集中してやれよ。
どっちも負けんように頑張って、辛抱することが大事やて、相撲は教えているのや。
こんな時代やけど、『発気揚意、残った残った』 で、つらくても
負けんように気合を入れて頑張って生き残って、つらいから死のうなんて
変な気を起さんと、最後まで真面目に生きていかんとあかんのや。
いつかは麸が作れる時が来るから…。それまで頑張らなあかん。
ノコッタノコッタや」

合掌

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