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【あんなぁ よおぅききや】NO.04 草履

あんなぁよおぅききや

昭和17年18年頃、戦争が激しくなっても、京都はまだそれほど厳しさは感じなかったように思います。
遊び呆けていてオシッコがしたくなり、走って帰ってきた時のこと
最初はそれほどでもなかったのにだんだんと辛抱が出来なくなり、家の近くになると
脂汗まで出ています。やっとのことで家の便所にたどり着き、「あぁ、間に合うた!」
垂れたらあかんと急いだために、開けるのに精いっぱいで閉める余裕はなく
表から便所までの戸は全部開けたまま。
放尿の爽快さと大きなため息の後、順番に戸を閉めていたら
父から「ちょっとここへ来なさい」と呼ばれました。
便所に連れて行かれ、「小便したくて、辛抱して走って帰ってくるような余裕のないことを
しててはあかんが、このことは次に言うことにして…。これ見てみ」

便所の草履が入口の方を向いて、八の字にバラバラに脱いであります。

「この草履の脱ぎ方は何や!」
「・・・・・」
「ちゃんと前向きに揃えて脱がなあかんやないか」
「・・・・・」
「走って帰ってきた時、便所の草履はどうなっていた?履きやすいように、前向いていたはずや。
履きやすかったから、オシッコ垂れずに済んだのと違うのか」
「・・・・・」
「おまえも垂れんと助かったんなら、次の人のために、前向きに脱いでおかんとあかんやないか。

『玄関の靴が乱れていると他所の人に笑われる。行儀の悪い家やと思われて恥ずかしいから
靴は揃えて脱ぎなさい』 と教える人もあるけど、他人に笑われるから揃えるのんやない。
次に履く時、次に履く人が履きやすいように前向きに揃えておくのや。
包丁やハサミを渡す時も、
次に受け取った人が使いやすいように 危なくないように
自分が刃の方を持って渡すのや。
これが心遣いや。

何でも、次の人がやりやすいように、ちょっと気を付けることぐらいができいでどうする。
毎日の仕事でも、次の人が作業しやすいようにして渡したら、次の人も早く楽に仕事ができる。
またその次の人も次に、順番にそうしていったらいらん手間は省けるし、仕事も早く、面倒もないのや」
「・・・・・」

「便所の草履くらいと馬鹿にしたらあかん。いつも前向きに脱いでいると癖になる。
前向きでないと気持ち悪くなる。そうすると他人さまへの心遣いが自然にできる人間になっていくのや。

あんなぁ よおぅききや

他人にしてもらうことばっかりで、自分は何もしない。何の恩返しもできんような人間は
世間の人がだんだん遠のいて相手にせんようになるのや。よう覚えときや。

これからは便所に行って 『履きやすくして頂いておおきに』 言うて履くのや。

『どうぞ、履いてください』 というて前向きに脱ぐのや。そしたら気持ちがええから」

合掌

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